CGS単位系(電磁気)補足
前回までに紹介してきた電磁気に用いられるCGS単位系の中で磁気双極子モーメント(磁気モーメント)に関して、E-B対応という注釈をしていた。今回はこのことについて補足をしたい。
1. E-H対応とE-B対応
電場Eに関しては、電場の源として電荷があり正負それぞれの符号を持つ電荷(実態は電子や陽子)が存在する。電気双極子モーメントpは、大きさが同じQで正と負の電荷が距離dにあるときp=Qdとなり、単位はC·mとなる。磁場(磁界)Hに関しては、電荷に相当する正負の符号をもつ(仮想的な)磁荷が非常に近接している状態から磁場が生じている(E-H対応)とする考え方と、原子のように周回する電子による電流から磁場が生じている(E-B対応)とする考え方がある。(下図参照)
前者E-H対応の場合、電気双極子モーメントに対応する磁気双極子モーメントはm=qm·dとなり、単位はWb·mとなる。また後者E-B対応の場合は、磁気モーメント( 双極子を入れて呼ばれる場合もある)はm=S·Iで単位はA·m2となる。なお両者の組立単位は一致せず、Wb·m≠A·m2(=J/T)となる。 いずれもSI組立単位で表現できるが、E-H対応かE-B対応かで単位がどちらも正しいが異なるということが起こる。
2. E-H,E-B対応どちらが標準か
教科書では、クーロンの法則の電荷に対応した磁荷を用いて説明しているものもあり(個人的には大学1年の電磁気では、磁荷で覚えていた)確かに覚えやすいというメリットはあるが、基本的にはE-B対応が主流のようである。E-B対応の方が物理的な実体に即しており、学会でも推奨単位 | 日本磁気学会SI単位(E-B対応)が推奨とされている。(E-Hも使用可だが) ちなみにwikipedia:磁気モーメントではSI単位はWb·mとなっているが英語版Magnetic moment - WikipediaのUnitsの項ではA·m2となっている。
3. 磁束密度との関係、磁化の定義の違い
E-H対応とE-B対応では、磁界H、磁束密度Bとの表記方法が異なる。E-H対応では
IはE-H対応の磁化で単位はWb/m2。
一方E-B対応では
MはE-B対応の磁化では単位はA/mとなる。E-H対応とE-B対応で磁化の単位が異なる。E-H対応とE-B対応の変換は上の2式から
となる。真空の透磁率μ0の単位はH/m、Mの単位A/mなのでH/m·A/m=Wb/(A·m)·A/m=Wb/m2で正しく変換できている。
磁化は全磁気モーメント(ベクトル)の体積当たりの値になっているので(http://web.tuat.ac.jp/~katsuaki/hosei/Jiseinyumon.pdf参照)、逆に磁化の単位から磁気モーメントの単位を導く。
E-H対応の磁化Iを用いると磁気モーメントはWb/m2·m3=Wb·m
E-B対応に磁化Mを用いると磁気モーメントは A/m·m3=A·m2
となり、E-H対応、E-B対応の磁化の定義の違いから磁気モーメントの単位の違いを導くことができた。
4. まとめ
E-H対応とE-B対応で磁気モーメントや磁化はSI組立単位であっても単位が異なることを紹介した。E-B対応が主流だが、単位だけからE-HかE-B対応か判断しにくいので念のためにどちらを用いたか断っておくと無難だろう。